「燃料危機」から「経済危機」へ

(燃料危機)

先週の月曜日(11/07)に、エネルギー省が、恒常的な燃料不足への対策として燃料の値上げを発表しました。ガソリンが290MKから380MKと31%の値上げ、ディーゼルが260MKから360MKと38.5%の値上げ、灯油が155MKから171MKへと10.3%の値上げとなり、平均で27%の値上げ幅になっています。これに対して、リロングウェの市民が、値上げは不当であるとして、火曜日(11/8)にリロングウェの高等裁判所に提訴しており、水曜日(11/9)に裁判所は訴えを認め、11/18に聴聞会が開催される予定です。これは、価格の決定は燃料規制局の委員会の中で決定される、という規則なのに対して、今回の価格決定には、その委員会が昨年の12月以降開催されておらず、委員会を通じて価格が決定されていないため不当であるというのが市民側の主張のようです。

一方、マラウイ経済協会やマラウイ商工会議所は、今回の燃料価格引き上げについて、これにより燃料供給が安定化するなら止むなしとの立場で容認しています。もともと、経済団体は、燃料不足の問題解決のためには、現在の公定価格ではなく価格の自由化が必要であるとし、需要と供給のバランスで価格が決定されるべきであるとしていました。つまり、事実上、現在のような燃料不足の状況下では価格引き上げを示唆していたことになります。

燃料の安定供給のために、政府はブラックマーケットでの燃料の売買についての取り締まりを強化しています。エネルギー省は11/10付でブラックマーケットの影響について言及するプレスリリースを発表しています。また不法な路上販売者を全国で20人逮捕したことを週末に発表しています。

私は車を所有していないので、ガソリンの実際の販売価格を確認していませんが、近所のガソリンスタンドの表示価格は以前のままでした。ただ、この週末はガソリンがやはり無いようで、ガソリンスタンドには車列も出来ていない状況でした。マラウイ人も、携帯電話やFacebook などで情報交換をしながら、ガソリンやディーゼルを見つけているようです。

新聞などを見ると、燃料の値上げに合わせてバスやミニバスの料金の値上げ、あるいは値上げを検討しているようです。具体的にはブランタイヤ市内のミニバスが80Kから110MK(55円)、リロングウェのエリア25行きのミニバスが110MKから150MK(75円)、長距離バスのブランタイヤ・リロングウェ間のバスが1500MKから2000MKといったように値上げあるいは値上げの検討が行われているようです。私が普段利用しているミニバスは今のところ値上げはなく50MK(25円)のままです。

(経済危機へ)

財務省やメディアなどは、昨今の厳しいマラウイを取り巻く環境から、「燃料危機」ではなく「経済危機」という言葉を多用するようになってきており、私自身も「燃料危機」というより「経済危機」というマクロ的な見方の方が妥当な気がします。ミニバスなどの直接的な値上げの他、人権や統治などの問題によるドナーの援助凍結、それによる超緊縮財政、そして基本品目に対しての付加価値税(16.5%)の導入、8月のクワチャの切り下げ(ドルに対して、150MKから165MKに切り下げ)、それに伴う輸入品の値上げ、主要な外貨獲得源であるタバコの売上高の40%ダウン(お茶の生産高も10%ダウン)、マラウイ経済の基礎体力がかなり弱ってきています。先週の新聞には、ブランタイアの水道料金が10%値上げするとの告知があり、昨日(11/12)は、リロングウェのSPARに行ったら、基本食品である食パンが150MKから180MKに値上がりしていました。インフレが加速する懸念が高まっています。

実際、こうしたインフレ懸念を背景にしてか、1,000MK紙幣の発行が噂されています。20MK紙幣を廃止して、1,000MK紙幣をといった流れのようです。市内のショップライトやSPARなどのスーパーでは1MKコイン(0.5円)が使われていますが、それ以外のところでは最近は1MKコインは使われなくなってきており、1MKコインを避けるために値段も5MK単位にしていたりします。ミニバスなどで1MKコインを出すと嫌がられ拒否されることもあります。8月にクワチャを切り下げましたが、IMFなどは、クワチャの切り下げは十分でないと見ています。つまりクワチャが市場価値より高すぎるということです。市内でのドル現金両替も1度、クワチャ切り下げが実施されたときに公定レートと現金両替レートが同じになりましたが、現在は、約5MK位の差があります。公定レートが1ドル=約165MKですが、現金両替レートは1ドル=約170MKといったところで、現金両替レートは、昨年からのレートと同じになっています。ただ、闇両替レートは、1ドル=約200MKくらいで取引されているようで、実際のクワチャの実力、価値はこの位と見るのが妥当そうです。実際に、さらにクワチャを切り下げる場合には1ドルに対して200-250MKくらいが検討されているようです。もし切り下げが実施されると、輸入が多いマラウイでは、さらに価格上昇が進むことになります。

燃料不足、電力不足による製造や物流の停滞もジワジワと効いてきています。先週、カールスバーグ社が燃料不足に伴う生産調整の告知を行いましたが、当然、生産調整を行えば売上がダウンするわけです。経済はお金やモノが流通し動かなれば、浮上しません。生産調整はカールスバーグ社だけでなく、他社も同様のはずです。実際、スーパーなどでも特定の商品だけが在庫切れといったことが散見されます。

マラウイのメディアなどが気にしているのが周辺国の「ジンバブエ」で、メディアなどでもジンバブエ化を避けなければならないといった論調の社説がネーション紙で何度か掲載されています。個人的にはジンバブエのようにはならないと思いますが、早めに手当をしないと、5年ごとぐらいに周期的に発生している干魃による食料危機が生じると、マラウイ経済は余力がないため大きく混乱することが予想されます。マラウイ準備銀行総裁は、マラウイ経済を立ち直らせるためには、2億ドル(約160億円)が年内に必要とコメントしていますが、もう少し現実的な実効性のある対策を講じてほしいです。